小林さんが経営する旬果市場さんは、石原さんのなす畑から、車で15分という距離にある。
ただ、小型バスだったためか、いつも通る道路と違うルートで進んだ。
あまり見たことのない道だった。
しばらくすると運転手さんがつぶやいた。
「いやあ、これは無理だなあ。これは無理だ。」
右前方を指し示して
「この道を上がっていくルートを案内されたんですけど、ちょっと無理ですね。」
その方向には、若干けもの道にも似た舗装されていない細い道があった。
「いや、こんなんじゃないですね。。。。」と私もつぶやく。
やや不安。旅程が崩れてしまう!
とりあえずそのまま突き進む。
上向山(かみむかいやま)は、今は甲府市に帰属するが、「中道(なかみち)」という名前で地元では知られている。
甲府盆地から少し上がった山の上に広がる、これまた盆地だ。
そのまま突き進んだ道は正しかったようで、見覚えのある道になった。
コンクリートで整備されたきれいなT字路。
「あ、ここです。ここを右に曲がってすぐまた左に下ります。」
そこかしこにとうもろこし畑がある。
「ここもそこも、小林さんの畑です。で、ここを降りた道に小林さんの事務所があります。」
とスタッフさんに解説。
ほんの少し面食らったが、道はあっていたようで、15分もかからずに着いた。
薄茶色のタオルを頭にぐるっと巻いた小林さんと奥様の麻衣さんが社屋の周りに見えた。
バスを一番に降りて挨拶に向かう。
「こんにちはー!」
「あれ!?1時じゃなかったでしたっけ?」
「あ!」
新宿から甲府に来るまでを3時間で当初は計算していたのだが、思いのほか、早く着くことが分かり、旅程を変更していたのに、小林さんには伝えていなかったことを、走馬灯のように思い出した。
「トモさんが聞き間違えたんじゃないの!」と麻衣さん。
「あ~、11時と1時を聞き間違えたかあ。」と頭をかく智斉さん。
―言い出しづらい…。
「あ、いや、すみません、私が変更を伝えてなかった…。11人で、すでに押し掛けておいてなんですが、、、ご予定とか大丈夫ですか?」
「大丈夫です。この時間に予定していたことを、午後に回すだけですから。」とお優しい。
「社長、ひどいっす。」とスタッフさんからは私に非難が。。。当然である。
小林さんのご夫婦は、たぶん一番最初にお会いした時には成立していなかったと思う。
察するに、ある程度、新婚さんだと思う。
やりとりもフレッシュで、お互い思うことを言い合える仲で、会話が活発。
ちょっとケンカっぽいときもあるけれど、仲良しだ。
「仲良いですよね。」と水を向けると、二人して「良くないですよ。」と声をそろえる感じが嬉しい。
そんなやりとりをしている間に、スタッフさんたちがバスから降りて、勢ぞろいした。
まず注目したのは、左脇にある桃畑?のヤギだった。
「!?」
人なつっこく、こちらに寄って来る。