石原さんのなす畑は、それと分かる特徴がいくつかある。
「まず、この青いネット。」
石原さんは、畑を青い防風のネットで囲んでいる。
甲府盆地は台風シーズンに時々暴風に襲われる。
風にあおられた葉っぱや果実が互いに擦れて、外観が傷だらけになってしまう。
ネットで周りを囲うことでこの風の影響を最小限に抑えている。
「そしてこの畝間の距離。」
一般的な畝と畝の間の広さより1.5倍くらい広い。
桃の木の二本仕立てと同様、なすの木の真ん中をあけるようにして横に広げていく。
こうすることで、日当たりが良く、風の通りも良くなる。
「だから、この支柱パイプも違う。」
支柱の鉄パイプが三角ではなく台形である。
その上の部分の距離が大事で、広い畝間に合わせている。
なす畑に、スタッフさんを案内するなり、私がしゃべってしまった。
パイプの説明が分かりにくかったのか、ポカンとしているところに、慶一さんが新しいまっすぐのパイプを持ってきてくださった。
「普通はこうやって支柱を立てる。」
まっすぐのパイプを先のほうでバッテンにして固定する。
実際にやって見せてくださり、スタッフさんもその距離の違いを瞬時に飲み込んだ。
このわずか20㎝程度の差が、大きな差を生む。
「この粒粒は肥料ですか?」
積極的なスタッフさんが、慶一さんに問いかけた。
「はい、そうですね。肥料は…」
最初に有機系の長く効く肥料を施し、根が伸びてきたな、と感じたら、畝と畝の間にも肥料をやり、さらにまた畝にやって、という効き目がコントロールしやすい化学合成肥料と効き目が長く、ゆっくりと効果が出る有機系の肥料の4回目までの組み合わせを、あっさりと教えてくださった。
「でもね、こうして話すけれど、やっぱり真似はできないんだよね。」
「なぜですか?」
「面倒だから。」
肥料の施し方は、料理人にとってのレシピに近い。
秘密の部分でもあるのだが、丁寧に作る方のレシピはやっぱり手間がかかる。
真似しようとしても実行は難しいのだ。
「野菜はね、極論を言えば、ほっといても生るから。それを収穫して市場に出せば、みんな一緒のお値段つくから。」と慶一さん。
「そこをこだわるか、こだわらないか、なんだよね。」
「まあ、こんなことを言っても、最後は、愛情なんですけどね!」