りょくけん東京

りょくけんだより
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キャンドルトマトと秘密のハウス。

レッドキャンドルトマト

「ろうそくの灯の形に似てるからと思って。」

小型のトマトの中でも、灯の形をしたものを、レッドキャンドル、イエローキャンドルという名を付けた。

「みんな良い名前ですよね。鈴木さんが付けられてるんですか?」
「そうですね、私と父とでつけています。食べてみてください。」
「食べたい!」

ちょっとパリッとした感じで甘みが強い。
ご案内いただいたカラフルの中でも最も美味しいかも。
黄色と赤があり、どちらも高食味。

「こちらはグッピー。食べてみてください。」
「食べたい!」

こちらは、今はやりの”アイコ”に似た形。これも美味しい。

「この3品種は、ヘタがぽろっと取れてしまうんですよね。」
「あ~。ヘタが取れると、市場では価値を落とされてしまいますよね。」
「そうなんですよ。でも、ふと思ったんです。別に取れていても、食べるわけじゃないし。」
フムフムと頷く。
「だからレストランさんに提案してみたら、”ヘタが取れていたほうが良い”って。」

イエローキャンドルトマト

要は、料理するときに、ヘタは取る。
彩りとして、あのヘタの緑が重要、という方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれないが、お客様の食べやすさを優先させたら、絶対に要らない。

「最後にこちら。フランスの大玉トマトとゆめを掛け合わせてみたんです。」
「フランスの? コーレデブッフェ、牛の心臓ですか?」
「そうそう。そうです。」

ヨーロッパで美味しいトマトはイタリアのものが多い。
でもほとんどが加熱用の品種だったりする。
また、ヨーロッパ人はトマトをあまり生食しない。

フランスの、「牛の心臓」トマトは、珍しく大玉の品種で、これまた珍しく、ヨーロッパでも生食されるタイプのトマト。
外観が握りこぶしか、心臓のような形をしている。そしてうまみが濃い。

「食べたい!」

と少し食べてみたが、ナトリウム分を少し感じるが、ゆめなどのほうが美味しいかもしれない。

「これと、まだ奥のハウスにちょっと実験しているものが…苗段階ですが…」
「見たい!」

と”秘密?のハウス”に連れて行っていただいた。
確か、数年前も連れてきていただき、カラフルのトマトの実験中、とご案内いただいたっけ。

見たことのない品種名が8つ。
いずれも英語名で、即座に読み取れない…。

インディゴ ローズ

「indigo rose? インディゴローズ? うーんいったい何色ですか?」
「golden cherry??? ゴールデンチェリー???」
「上が黄色で、下半分が赤。」
ほほう…。

「これ、あれですか、エアルームトマトですか?」
「あ、はい、そうです。毎年少しずつ譲ってもらっていて、有力そうなものはまた掛け合わせて、日本の趣向に合うように、改良しています。」

エアルームトマトは、世界中にコレクターがいて、昔見たものでは、「ピンクグレープフルーツ」なんて名前のものがあり、外側が黄色で中が赤いトマトや、様々な色の組み合わせがある。
形状も様々。

ただ、原種に近く、すべてが在来種。
改良された品質の安定したものではなく、一定の大きさにはならないし、発芽するかもわからないし、実がなるかもわからない。」

そして何より…。

―まずいのだ。

「エアルームってまずいですよね…?」
「向こう(=欧米)の品種は、まず粉質なんですよね。食味も良くない。だから掛け合わせてみるんです。」

粉質(ふんしつ)とは、要は粉っぽいこと。ぼそぼそした食感で、りょくけんの代表商品であるファーストトマトも初期段階では、粉質で、あまり美味しくない。
桃太郎トマトの登場で、食感が”粘質”になり、爆発的に需要が伸びた。

「でも、全部面白そうですね。この中から少しでもモノになるものがあると、また楽しいですね。」
「はい。」

外では雨が降ったり止んだりしていた。
ハウスの中でじっくり話が聞けて本当に良かった。

帰り際、「そういえば、照喜治さんが亡くなったんですよ。ご存知でした?」
「昨年、亡くなったそうですね。父がどこからか聞いてきました。」

鈴木さんのお父様は永田 照喜治さんのことを”大先生(おおせんせい)”と呼ぶ。
照喜治さんの技術を一子相伝に引き継いだ息子さんのことを”先生”と読んでいる。私の元上司だ。

「また遊びに来てくださいとお伝えください。」
「かしこまりました。伝えておきますね。」

永田 照喜治(てるきち)は、りょくけんの創始者のひとりで、いわゆるフルーツトマトの作り方を体系化した方。
昨年9月2日に亡くなった。

照喜治さんの残してくれたことは数知れない。
鈴木さんとのご縁もそのひとつ。
きちんと守っていきたいと思う。