私の中で、この世で一番おいしいキャベツは、”あまだま”だ。
キャベツには春ものと寒玉とその両方に属さない中間系とグリーンボールと、大きく四つの系統に分かれる。
日本の方は、春が大好きなので、春キャベツも大好き。
が、食味が素晴らしいかといえば、さほどでもない。
春になり暖かくなってきて、ふわっと育つキャベツ。それが春キャベツである。
生長も早いので、巻きがゆるく、結果的にやわらかくなる。
人間の舌は、やわらかく水分が多いと、より甘く感じる。
例えば、メロンが良い例だが、収穫したてと食べごろを比べると、糖度は全く変わらない。
果肉がやわらかくなり、水分が出てくることで、甘みを強く感じるようになる。
だから、春キャベツは、さほどでもない。
そういってしまうと、甚だ春キャベツに失礼だし、あと2週間もすれば私も春キャベツを
「美味しいですよ!春キャベツですよ!」
と言って販売するので、あまり言いすぎないようにしたい。
11月下旬から2月上旬まで、毎年販売してきた「あまだま」は最高だ。
寒玉のように、甘みが強いのに、やわらかいのだ。
そして瑞々しい。
包丁を入れると、ぱかっと割れるように切れ、水分がじゅわっと飛び出す。
生でも本当に美味しい。
そんなに美味しいなら、というが栽培がむつかしく、ほとんど作られていない。
まず、鳥に食べられる。
鳥は鼻が利くのか、目が良いのか、熟した美味しいキャベツだけ食べるそうで
愛知、豊川の川崎さん(旧 入倉さん)が嘆くのは、「うちのあまだまだけ食べられてしまう」ことだった。
また、やわらかいためか、病気にとても弱く、歩留まりが極めて悪い。
そして収穫時期だ。適期が極めて短く、ちょっとでも過ぎてしまうと、割れる。
畑でぱかっと割れてしまうのだ。
川崎さん(旧姓;入倉さん) |
川崎さんが言うには、本来の収穫適期は、ほんの2週間程度だそうだ。
それをうまく作柄をずらすなどして、2か月以上、収穫できるようにしていた。
が、2016-2017年は、それをしなかった。
ーその理由は、価格。
キャベツはレタスと並んで、とかく価格の上下が激しい。
収穫量が一定になりづらい。
基本的に野菜は市場に出荷される量で、価格が決められる。どんなに品質が良くても、だ。
豊作で品質が良いときには、量が多いので、価格が下がる。
逆に、凶作のときは、量が少ないので、品質がもっぱら悪くても、価格は上がる。
ここ数年、キャベツはその法則の憂き目に遭ってきた。
豊作で、価格がずっと低迷してしまったのだ。
「あまだまは、自分のプライドのために作っている」と胸を張って言っていた川崎さん。
そんなプライドも砕き去ったのが、ここ数年の市場価格だった。
事務と販売担当で、川崎さんのお母さまである石野さんから
「実は今年はほとんど作ってないんですよ。」
と告げられたときは、悲しかった。
理由を聞いてもっと悲しかった。