こういうことを公の場に書いても良いものか、少し迷うが、こういうこともあるのだ、ということを心に留めておくためにも、記録に残そうと思う。
先週、私が敬愛する桃の生産者さんを訪ねた。
事前の電話で桃のことをうかがっても、なかなかはっきりした返事が返ってこない。
奥さんが対応してくださるが、ご主人が出ない。まあいつもの通りか、と思い、とにもかくにも、行ってみようと思いたち、山梨 一宮御坂のご自宅を訪ねた。
奥さんだけが出迎えてくださり、なかなかご主人が出てこない。
「ほら、お父さん、りょくけんさんが来てくださったよ。」と促され、裏口から元気そうなご主人が出てきてくださった。
「まあったくね。りょくけんの大森さん、って言っても分からんだからね。ほうら、あの永田さんのところだよ。って言っても「そんなん知らん」だからね。」と奥さん。
「おお、そういえば見たことがある。」
いつもと変わらない、つやつやした顔で、にかあっと、少し気まずそうに笑いながら私の顔を見た。
「まあったくね、認知症だからね。困ったもんだ。」と自ら言う。
りょくけんに入って一番最初にお会いした農家さん。もう10年になる。
奥さんの運転で桃の畑に向かう。
「いやあ、今年は大変な年だよ。雨ばかりで晴れが無いから。」
いつもと変わらない会話。
畑はやや荒れた感は否めなかった。ご主人の足が悪くなり、もうめったに畑には出ないのだと言う。昨年の9月から、息子さんが就農。ただ、どんな運命なのか、桃アレルギーで、ぶどうに重点を置いている。盛りだった樹もかなり切ってしまい、細い枝の樹が多い。カイガラムシがついてしまい、太くならないのだと言う。
奥さんとそんな話をしている間、ご主人は畑を歩きまわり、とっておきの桃を見繕って持ってきてくださった。
「これはウまいゾ。」と差し出してくださった。
久しぶりの名人の桃。樹になっている実はどれも小さかったが、皮に霜が降り、大玉で、ぽってりとしていかにも美味しそう。
美味しい桃の見分け方は、ご主人に習った。だから、ご主人が選んだ桃が美味しそうに見えるのは、至極、当然なのかもしれない。
期待を大にして食べると、、、
―さほどでもなかった。
7月に入って降り続いている雨のためなのか、やっぱり手が入っていないのか、ご主人が選んでくださった桃が、さほどでもない。
そのあとも次々と枝から取ったり、落果しているものから拾い上げて、私に差し出してくれるのだが、どれも今一つ…。
「ご主人はは、畑に最近は入ってないんですか?」
「足が悪いからね。転んで骨折でもしたら、それこそ大変だから。」と奥さん。
「家で監督してるってワケだ。」とご主人。
先月から奥さんとは連絡を取り、7月10日頃の収穫と聞いていたが、早生系の白鳳はすでに収穫が終わり、現在出荷が無い。本白鳳は、曇天で着色が悪く、奥さんは20日頃から、と言い、ご主人はあと3~4日=12日頃から、と言う。
饒舌に、昔と変わらずしゃべるご主人がいたかと思うと、だんまりと遠くを見たり近くを見る仕草を繰り返す。
同じく糖尿だった祖父を思い出す…。
やりきれない思いを抱えながら、車に乗った。
ご自宅の広い庭から、公道に出る際、いつもと変わらずご主人がバックを誘導してくれた。
あれから一週間。昨晩、奥さんから、今年の桃の取り扱いについて断りのファックスが来た。
半ば納得していたけれど、半ば…。
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お客様も、りょくけんスタッフも待ち焦がれていた高橋さんの桃。
誠に申し訳ございませんが、今年のお取り扱いはありません。
とても残念です。それでも、前を向いて行こうと思います。