安芸さんのご自宅の数十メートル先に、昨年より西洋梨をお願いしている森さんの農園がある。
ご自宅の周りにはりんご畑があり、離れた場所にもいくつかの畑を持っている。
今期はすでにオーロラ、バートレット、ブランデーワイン、グランドチャンピオンの4品種を取扱い、お客様にも、販売スタッフにも好評を得ている。
「オーロラは、今年も美味しかったですね!
バートレットも、青りんごみたいな風味があって、とても美味しかったです!」と水を向けると
「バート(レット)もですか?そうですか…。」と少し困惑気味。
森さんは正直だ。
たくさんのこだわりと情熱と技術をお持ちだが、さも当たり前のように語る。
安芸さんをして「家に入って十数年。それこそもう立派に技術を吸収して、りんご農家として素晴らしいよ。」と言わしめる。
オーロラは、早生の西洋梨の中でも、ピカイチの風味を持ち、評価が高い。
バートレットは、淡白で早い時期に出るだけ、とマイナスのレッテルすらある。
継続して西洋梨をお届けするには不可欠の品種だが、一般的な評価は低く、それが森さんを意外な表情にさせた。
「そうですか…。天候(に恵まれた)せいなのかな。」
店頭では、ブランデーワインがほぼ終了し、私が一押しのグランドチャンピオンがスタートしている。
なめらかな舌触りは、ラフランスのそれをはるかに凌ぎ、わずかに感じる酸味も相まって、最高に美味しいのだ。
残念ながら、関東ではめったに販売されていない。
「西洋梨は、もう増えないでしょうね。『胴枯れ病』という病気があって、これを防ぐことができないんですよね。」
安芸さんが、昨年、栽培を断念したのも、この、胴枯れ病が原因だった。
今期は、西洋梨に加えて、事前に相談しいくばくか、りんごもお願いすることにした。
「りんごは何種類くらい植えているんですか?」と聞くと、
「試験品種を入れると20数種類あるかな。」
森さんはりんご農家だと、安芸さんから聞いてはいたが、そんなにたくさんの品種を作っているとは驚きだ。
今回は変なお願いをしていて、20数種ある中から、珍しい品種で美味しいものをリクエストした。
その三つが、レッドゴールド、こうこう、紅の夢 だ。
森さんのご自宅を中心に時計回りに回ると、まず最初にレッドゴールドがあった。
北海道などの寒冷地に好適な品種で、蜜も入り、味が良い。
赤を通り過ぎて黒っぽくなったものは、本当に美味しい。
惜しむらくは日持ち。あまり日持ちしない。
「りんごの木にしては、とても太いですね?」と聞くと
「この木は樹齢40年くらいあるね。だから、そろそろお役御免にしなくてはいけないかもね。すでに病気も始まっていて、たとえばこの枝。」
森さんがたたくと、カンカンと高い音がする。
空洞なのだ。
「奇跡のりんご」という無肥料無農薬で育てたりんごの話を引き合いに出すまでもなく、りんごは、本当に病気に弱い。
湿潤な日本では、余計に、弱い。
「次は、あっちかな。」
青りんごの「こうこう」。
「結婚を決めて、嫁の出身大学の弘前大学に結婚のごあいさつに伺った際に、いただいた枝でね。『これ作ってみな』って。」
こうこうは青りんごで、その弘前大学の藤崎試験場で生まれた品種だ。蜜がとてもよく入り、味も良い。
最後にたどり着いた場所が、紅の夢。
「これも、その弘前大学の恩師からいただいた枝で、今はもう2本の枝だけです。」
植物というのはすごい。
地に根を張った木の枝に、違う品種をつなぐと、その枝が生長し、その枝の品種がなる。
紅の夢の半分むこうは、まったく違う品種がなっているのだ。
指を差しているところが、接ぎ目。接ぎ目から右側が紅の夢。 |
「紅の夢」は、五所川原などと同様で、なんと果肉に赤みが差す品種の大変珍しいりんごだ。
その赤さはたいていがポリフェノールだから、渋くて食用に向かない。
紅の夢は、紅玉を親として、たまたま試験場にあった品種の、たまたま生まれていた赤い果肉の品種が交雑して生まれたものらしい。
というのも、実は、紅玉と「他の品種」を掛け合わせたのに、遺伝子を調べていくと、その品種ではなく、別の品種であることが分かったからだ。
その、別の品種の中にたまたま生まれた赤い果肉の品種が、紅の夢の親になった、というのだ。
紅玉とよく似た風味で、酸味があり、生食にも、調理用にも向く。アップルパイやジュースはそのまま鮮やかな赤さになる。
りんご農家ならではの、大変珍しい3品種。お客様から、どんな評価をいただくのか、とても楽しみだ。
■レッドゴールドりんご 北海道産 1玉 324円~ 10月25日頃~
■こうこう 北海道産 1玉 価格未定 11月10日頃~
■紅の夢 北海道産 1玉 価格未定 11月10日頃~
紅の夢 |
と、最後に、納屋の、作業場兼冷蔵庫に立ち寄ると、収穫されたプルーンがたくさんあった。
さっと触れてみると、耳たぶのやわらかさ…!
これはもしかして!と、森さんに聞く。
「このプルーン食べても良いですか!?」
「どうぞ。これが、ビッグフレンチ。これがベイラー。こちらはローブドサージェン。」と次々と品種が出てくる。
「美味しい!」
今年も、お客様からお問い合わせがあった『完熟プルーン』。
なかなか樹上で完熟させる生産者がおらず、安芸さんが樹を切ってしまってからは四苦八苦していたアイテムだった。
「これ、ぜひ譲ってください!」
「良いですよ。」とさらり。
…それが、10月12日のこと。現在10月18日。
昨日から店頭に並び、好評を博している。
今年は取り扱うのが遅かったので、もう少しでおしまいだが、来年はもっと早くから取り組みたい。
楽しみの増えた北海道訪問だった。