風力発電の風車が見えてきた。
静岡県掛川市、千浜。海岸から続くさらさらの白い砂地が特徴の場所で、にんじんやさつまいもが名産なのだが、今回は、いちごが目的だった。
生産者は、川口さん。最初は料理の道に入り、肥料の営業を経て、7年前に就農。肩幅がありガッシリとして少し猫背にしているが背丈よりも大きく感じる。
ハウスに着いたが、葉面散布をしている途中で、お忙しい中、ご対応いただいてしまった。
ハウスの中はうすら暖かい。外は風力発電があるくらいなので、寒風がぴゅうぴゅう吹いていて寒かった。
ハウスの中に入るなり、川口さんは怪訝な顔をして
「おかしいな、なんでこの時間に暖房が…?」とつぶやいた後
「すみません、ちょっと暖房の設定の確認をするので、待っててください。」とハウスの奥にある機械に向かった。
いちごの畑はとても整備されている。畝が高い。水はけを良くするためだ。砂地だと高畝を作るのはそんなに難しいことではないらしいが、やはり重労働だ。
全圃場に黒マルチ=ビニールシートを張っている。これも余計な水分が入らないようにする目的と土の温度を保つ目的がある。
「スミマセン、お待たせいたしました。」隣のハウスの暖房も調整し終わって、川口さんが再び来てくださった。
聞けば、土の中の成分を調べたり、葉の”硝酸態窒素”の値を週に一度ないし二週に一度は調べているという。硝酸態窒素は、発がん物質として知られ、苦味やアクの原因になるのだが、植物の体内には、通常、存在する物質だ。肥料成分が吸収され、その後、硝酸態窒素の状態になって、さらに変化して消化される。
簡単に言えば、人間が与えた肥料分がきちんと植物に消化されているかを知る目安になるのだ。消化不良で体調が悪いのか、悪くないのか。それを知る指標となる。
主力品種は”紅ほっぺ”と”あまみつ”。紅ほっぺは、食味が良く、豊産性が高く、輸送性も高いため、静岡県の推奨品種となり、栽培が盛んだ。
「あまみつは、川口さんが交雑してつくった品種なんですよね?」と聞くと
「違う違う。確かに作っているのは、もう僕しかいないけれど、この品種は僕も開発した方から譲ってもらったものです。」
イチゴは、一度品種を固定すると、その後は増殖させやすい。観葉植物にオリヅルランという植物があるが、あれと同じで、”ランナー”と呼ばれる子株を伸ばす。その子株を土に植えれば、種から育てることなく、比較的容易に増やすことができるのだ。
そのため、品種の権利についてシビアなことが多い。
「品種を作った人からは『名前は言ってくれるな。ただ、磐田にいる、とだけ言って良い』って言われてる。」
なるほど。
「こいつ(あまみつ)は、味は良いんだけど、やっぱり難しくてね。病気もかかるし、(収穫量も)とれない。だから県の推奨指定からもれたんだよね。他にも作っている人がいたけれど、みんな止めてった。」
美味しいけれど、難しい、収穫量が取れない。でも、作っている。私が好きなパターンだ。
「でもね、それを何とかコントロールするのが面白いんだな!」
川口さんがすがすがしい笑顔で笑った。
貴重なあまみつを食べさせていただくと…。ジューシーで甘い!変な表現だが、コンデンスミルクをかけたいちごのような味!
もう一方の棟では、他の実験品種も多数。章姫(あきひめ)、ふさの香、おいCベリー、おおきみ、かなみひめ、アイベリー etc.
いちごは、どんなに努力しても、量と食味に山と谷が出てしまう。複数の品種を植えることでそれを適切に乗り切るため、あまみつ、紅ほっぺに続く主力品種も研究中なのだ。
すばらしい農家にまた会うことができた。
当面、木曜日限定の納品だが、紅ほっぺ、あまみつを始め、さまざまな品種を試してみてほしい。
■紅ほっぺ 静岡県産 1P 1,260円
■あまみつ 静岡県産 1P 1,680円
帰りの車の中、川口さんのお父様が作っているという芋を焼いた焼き芋をほおばった。
「むむ。。。うまいな。。。」
蜜化してぱりぱりになった皮が甘く、とても美味しかった。確か干し芋もあったような…。