美味なる待ち時間。

りょくけんだより～ BLOG ～

2011.10.27

「ん…？　無いな。」あるはずのものが無かった。

北海道のくだものどころ、余市。

完熟プルーンに、ぶどう、りんご。すべてのくだものが美味しい安芸さんの農園はそこにある。

いちごトマトなどを作付していただいている中野さんの家からは車で2分ほど。数少ない信号を曲がり、道路に面した安芸さんの家の敷地内に入る。左手の倉庫兼作業場の前を通り、そのさらに左手にはぶどうのハウスが立ち並ぶ。そのさらに左手奥。

あるはずの西洋梨の畑が見当たらない。

「？」

庭の小屋に戻った。

「こちらも作ったんですね。」

安芸さんは、ここのところ、農閑期に建築をするのが趣味になっていて、行くたびに、新しい建屋が、安芸さんの家の庭には登場する。

「ところで安芸さん。ブランデーワインとグランドチャンピオンの木が見当たらなかったんですけど？」と聞くと、

「あー」と言った後、

「半分は切ってしまったよ。」

「えー！」

しばし絶句。

「確かに、確かに、正直申し上げて、自分の思い入れと違って、そんなに売れるものではないですけど…！」

「でしょう。そうだと思うよ。俺だって、あんな、食べられるようになるまで、待たなくてはいけないものなんて嫌だものー。食べればもちろん美味しいんだけれど。」

「安芸さん、今年は絶対きちんと販売しますから！」

一昨年は、ブランデーワインが病気にやられ、きちんと販売できなかった。

昨年は、きちんと連絡できず、数量確保できなかった。

今年こそ―。

西洋梨は、食べられるようになるまでに追熟という時を得なくてはならない。樹にならせて収穫しただけでは食べられないのだ。そのままおいておけば、完熟して甘くなる品種もあるようだが、そのときには果肉はシワシワのトロトロになっており、食べられない。一度、収穫し、低温に１ヶ月ほどあてて常温に戻すことで、追熟が始まり、でんぷん質が糖分に変化し、１週間ほどで食べられるようになる。キウイ、アボカド、メロンなど、追熟が必要なくだものは少なくない。

西洋梨の不人気は、ひとえに、その追熟にかかる待ち時間が理由の一つだ。

ただし、その艱難辛苦を乗り越え、得られる至福の味わいは、何にも代えがたい。

食べごろを当てて、その美味しさにあたったときは、とても幸せな気分になる。青果業を生業とするものとして、それは、当たり前、と思われてしまうかもしれないが…。

追熟の目安は、香りと、ヘタの周りのシワだ。ルクティエのように完全に色が変わるもの（緑→黄）もあるが、多くの場合、あまり果皮の色は変わらない。可視できるのは、やっぱりシワだ。常温の日に当たらない場所で放置し、３～４日で変化が現れる。そこからもう一日だけ待てば、食べごろだ。冷蔵庫に入れて２～３時間待つか、氷水に入れれば、３０分くらいでひんやりと冷えてさらに美味しい。すこし軟らかくなったアイスクリームのような食感に、さわやかな甘さとほのかな酸味を味わえる。

特に、安芸さんの西洋梨（＝ブランデーワインとグランドチャンピオン）は絶品だ。