「『ケーキのように扱ってください。』ってよく言ってるんですよ。」
電話の向こうは、やわらかな河内弁だった。
大阪と言う大都市で、農業を営むのは、難儀だ。
他県に行くと、10ヘクタールもの面積を持つ農家さんが五万と居る。大面積を持てば、機械化もできるし、少々害が出ても、全滅は少ない。一部で済む。
ところが、都市農家はそうは行かない。カバーできるような大面積が無いからだ。
大阪北部に位置する八尾市は、奈良県にも近いが、大阪中心部にも近い。関西では、枝豆の産地として名高く、近畿No.1に挙げられる。
それと同時に、大阪中心部のベッドタウンでもある。
そんな場所に、結城さんの枝豆畑はある。全面積で6反(0.6ヘクタール)。4箇所に分かれており、うち3箇所が、住宅地のど真ん中にある。
聞けば、八尾のどの農家も、同じような状態だと言う。
限られた面積の中で、美味しさと効率の両方を求めて、枝豆も二期作を実施する。5月末からハウスものを出荷し、収穫が一度終わると、苗をもう一度植えて、暑くなったころには、ハウスのビニールを取り、露地の畑にする。ハウスの枠は残ったままだ。
生育状態を見ると、きれいに丈がそろっており、葉に虫食いはあるものの、実が付いていない枝が無い。少々の風が来ても枝豆が耐えられるように、ビニールテープをたてに張り巡らしてある。上手だ。
恐れ多くも、「丁寧につくってますね。」と言うと、
「狭い分、失敗できないですからね。」と柔和な笑顔で応えてくれた。
◎枝豆は晩生が旨い。
上司が言っていた言葉だが、これは真実だと思う。
暑くなり始める6月から枝豆は食べたいが、美味しいのは8月20日ごろ~10月に出る晩生品種だ。
この、絶対的な美味しさに対抗しうるのが、『鮮度』だ。
いかに早く収穫し、いかに早く冷やし、いかに早く届け、食べてもらうか。
これに尽きる。
「3時には収穫をはじめて、7時には終わっているかな。暑くなると味が落ちますからね。それから朝ごはんを食べて、午前中には選果も箱詰めも終わってますよ。16時には運送業者さんが取りに来はって、翌日、東京には着きますよ。」と結城さん。
豆野菜は、呼吸が活発な野菜で、収穫後も、呼吸をし続け、糖分を消費続ける。その結果、収穫仕立ての美味しさが減じてしまう。
6月に枝豆を収穫できる産地は、九州や沖縄などもあるが、いかんせん、鮮度が悪くなってしまう。その点、大阪~東京間は幹線が走り、翌日には届く。これが美味しさの秘密だろう。
「あそこに生駒山が見えますでしょ。 ここの土は、あそこから運んできた真砂土(まさつち)なんです。もう、今は禁止されて、あかんのですけど、父の代は、ぎりぎり大丈夫だったみたいで。」
やや赤みを帯びた細かい土目。水はけを良くし、ミネラル分に富む。これを60cmから1m、客土したのだそうだ。
変な話だが※、豆自体の熟度を、結城さんはぎりぎりまであげている。真緑ではなく、やや黄色みを帯びているのは、そんな理由がある。ふっくらまるまると太った豆には、甘みと旨みが詰まっている。馥郁とした食感も楽しめる。
「豆ってね。固そうに見えて、実は繊細なんです。だから、買ってきたケーキみたいに、届いた枝豆は、すぐに冷蔵庫に入れて、丁寧に、倒れないように扱ってもらって、できるだけ早く食べてほしいんです。」
一番最初に電話した際、熱っぽく、結城さんが話していたのを思い出す。
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「あの枝豆、本当に丁寧だよね。なんかさー詰め方とかさ。ふっくらしている感じとか。」
先日、お店で作業を手伝っていたら、そんな声を聞いた。
良い写真とは、写っている人物が、まるでしゃべりだすかのように感じるものらしい。
同じことを、野菜にも、感じるときがある。
良い商品は、その裏にいる生産者の人や、なり、思いすらも、然と伝えてくれる。
結城さんの枝豆も、そのひとつだ。
■八尾の枝豆 大阪府産 1P 630円(税込) ~8月20日ごろまで
■ゆで枝豆 100g 263円(税込) 池袋店のみ
※枝豆は、大豆の未熟果。熟度をあげたとしても、未熟果ではある。