「今年の出来はどうも…。」 低い声で森さんがつぶやく。
長崎空港から車で1時間強。長崎半島は、海から直に、山になる切り立った地域。「砂浜」なんていう、やさしい場所は見られない。天草灘に面し、南東に向いた斜面には、木々がうっそうと茂っており、合間を縫って、びわの木が連なる。特徴のある、大きくて厚みのある葉と、果実に赤や青や白の袋がかけられていて、すぐにそれと分かる。
森さんのびわ畑も、そこにある。
長崎は、びわの生産量日本一だ。そのため、品種改良も盛んで、次々と新品種が生まれている。以前は茂木と長崎早生が主流であったが、現在では、陽玉、涼峰、涼風、夏だより、麗月、etc.静岡では白茂木、千葉では田中など、枚挙にいとまがない。
「涼風は長崎早生の次に出荷される品種で、酸味が少ない分、たんぱくだけれどやわらかいので、甘く感じる。涼峰(りょうほう)は、酸味もあって、美味しいけれど、果肉がやや固い。」
森さんは、県から新品種の試験栽培も依頼されており、品種にも詳しい。県では、伝統的な茂木びわに代わって、大粒のびわ品種を推している。
「露地ものとハウスものですと、どちらが美味しいんですか?」
自分の中では、ハウスもののほうが、雨が入らず、食味が安定する、と考えていたので、思い切って聞いてみた。
「そりゃあ、露地のほうが、玉も大きいし、味も良いよ。」
と意外な答えが返ってきた。
「今、県で一番打ち出しているのが、夏だより。」
「どんな品種なんですか?」と聞くと、
「どんな、かあ。いろいろあるんだけれど…。」と一呼吸置いた後、
「一言で言うと、ウマい。」
と言葉を選び出した。
「糖(度)もあって、酸味もあって、果肉もやわらかい。」
慎重な物言いを崩さなかった森さんだが、このときばかりは冗舌だった。
石垣が組まれた段々畑から、遠く、島原半島や天草が見渡せる気持ちの良いロケーション。晴れていたら、どんなに美しかっただろう。
大ぶりの、一言で言えば、ウマいびわ。まもなく、店頭にも登場する。
■びわ 長崎県産 1P 1,260円 5月末 涼風、6月上旬 夏だより
��一口メモ>
・びわは、傷みやすいというが、そうでもない。少しオセも出たりするが、中身はなんともないし、日持ちも、野菜室で1~2週間は傷まない。
・びわは、可食部が少ない、というが、そうでもない。種が大きいイメージがあるが、メロンやスイカよりも可食部は多い。