りょくけん東京

りょくけんだより
りょくけんだより~ BLOG ~

「うん。壱岐のアスパラは良いね。」

asparagus plural.jpg 

従帯方至倭循海岸水行歴韓國至拘邪韓國 七十里

始度一海千余里 至対馬國 其大官曰卑狗副曰卑奴 無良田南北市糴

南度海 至一支國 置官与対同 地方三百里

対訳:帯方より倭に至るには海岸に循いて水行し、韓國を歴て拘邪韓國に至る。七十里。

はじめて一海を度る千余里。対馬國に至る。其の大官を卑狗と曰い、副を卑奴と曰う。良田無く南北に市糴す。

南に海を渡り一支國に至る。官を置くこと対に同じ。地の方三百里。

(「翰苑」卷三十 魏略 逸文※より)

————————————————————————————-

松屋銀座本店に仮出店していたときのことだ。春野菜の一つであるアスパラガスの開発を行うことになった。特殊?な作物で、秋までに根っこにため込んだ栄養分を使って春に芽吹く。その、芽を食用とする野菜だ。一年目は株を十分に成長させるために、収穫はしない。2年目は、収穫できることはできるが、細すぎて、出荷はできない。そうしてようやく3年目から経済栽培が可能となる。

そんな長い時間待っていることはできないから、既存の、すでに作付している農家さんから探すことにすると、上司たちが口をそろえて、「壱岐に良いのがあるよ。」と言う。

会長に聞いても、

「うん。壱岐のアスパラは良いね」

とうなづく。

当時は、ブロッコリーのお取引もあったので、早速、担当者にお願いしてサンプルを送っていただいた。

「出始めは、やわらかいので、生で食べられる」という情報だったので、そのまま生食で食べると、サクサクしてジューシーで美味しい。穂先には独特のうまみがあり、スジははってくるが、根元はサトウキビにも似た甘味がある。これは、とても美味しい。

———————————————————————

壱岐(いき)は、韓国と九州の間にある島、いわゆる離島で、長崎県に属する。福岡の博多港から高速フェリーで1時間半ほどで着ける。

ferry.JPG 博多港から壱岐に渡るフェリー。

一昨年。ようやく、その壱岐を訪ねる機会に恵まれた。最初は、高波で渡れず、すごすごと浜松に帰った。二度目の挑戦でようやく渡航することができたのを覚えている。

島に着くと、どんよりとした天気で、雨も時折、降った。何人か農家さんにもお会いし、お話しもした。

素朴で良い人ばかりだったが、どうもピンと来ない。消化不良のまま、車で島を一周することにした。そこで、分かったことがある。

takenotujikaramita (2).JPG 岳の辻から見る壱岐島

壱岐には、「最古」がいくつかある。日本最古の和牛「壱岐牛」だったり、最古の「麦焼酎」だったり、「神道発祥の地」であったり。

実は、日本で最も歴史が古い島として知られている。根拠となるのは、中国の歴史書で、「魏志」や「魏略」、「梁書」、「隋書」などに、「一支國」あるいは「一大國」として、邪馬台国に渡るまでの道程に記されているのだ※。

現に、いくつもの遺跡が残されており、そのひとつ「原の辻(はるのつじ)遺跡」は、壱岐国の王都であったとされ、中国や外国の使節を迎える建物だったと考えられている。農家さんにも「ちょっと掘ると、土器の欠片が出てくるんよ。」と聞いた。

ruin.JPG原の辻遺跡展示館で紹介の土器

意外に開けた市街地を抜けると、段々畑に、牧草や麦が植えられており、そこかしこにむき出した断層に目をやると、土が赤かった。肥沃ではないが、鉄分などミネラルが豊富な証だ。また、水がきれいで、美味しい。焼酎が古くから作られたのも、その水があったからだろう。

genbugan.JPG 断層が赤い。

「産地ブランド」という言葉がある。その土地の特徴が、野菜などの特徴を生み、固定化される。じっくりと育てることができる赤土と、海、美味しい地下水。それらの要素が、壱岐のアスパラガスの美味しさの決め手なのではないか。そのように感じたのである。

いよいよ、そのアスパラガスの時期がやってくる。寒さもあって、例年よりも1週間ほど遅れた。古代から伝わってきた空気、水、土が育てた壱岐のアスパラガス。ぜひそんな息吹を感じながら、まずは一口、生食で召し上がってみてほしい。明日8日から販売開始予定だ。

asparagus.jpg

■壱岐のアスパラガス 長崎県産 1P 504円(税込) 3月8日(火)~4月末くらいまで

※「翰苑」…中国の類書のひとつ。類書とは、百科事典の一種。古代から編纂されてきた歴史書などの中で、原典が失われたものを、再度編集しなおしてまとめたもの。

※魏略…三国時代、曹操で有名な、魏の歴史についてまとめられたもの。「壱岐」について触れた中国の文献として、「魏志」がよく挙げられる。内容的にはほぼ同じ。ただ、表記が「一支國」ではなく「一大國」とあり、諸説ある。後世にまとめられた歴史書では、「一大國」の表記が無く、すべて「一支國」とあることから、誤植ではないか、という説が有力。

※逸文…原典は失われているが、いくつかの書物で引用されており、その存在が、以前より認識されているものを、再度編集した文章のこと。