目の前に、「ここは本当に日本?」と疑いたくなる光景が広がっていた。
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「この時期の宮城に一度行っておきなさい」と上司からのすすめがあった。午前中の仕事を片付け、新幹線で北上。仙台駅までは、二時間もかからない。そこから小一時間。車で南下すると、大村さんの畑に着く。阿武隈川と太平洋に挟まれた地帯だ。
宮城県岩沼市。まぎれもない、日本だ。
岩沼市の海
「遅いじゃないっすか、急がないと日が暮れちゃいますよ。」
軒先で出荷作業をしていた大村さんが、私を見るなり声を掛けてくれた。
12月の冬至の直前。日が最も短いときだ。すでに太陽が低く、影が長く伸びていた。まもなく夕暮れだ。大村さんは、以前にもブログで紹介したが※、ロメインレタスを中心にさまざまな西洋野菜を育てている。宅配業者さんが荷物を取りに来る時間帯で、梱包作業に忙しそうだった。
羽織った上着の襟を立て、細身のブーツカットジーンズ。まるで農家さんらしくない方だ。
梱包所から、早足にハウスに向かい、中に入って、黒いシートで覆われた大きな桶の前に案内された。がばっとカバーを開けると、そこには、本でしか見たことの無いイタリア野菜があった。
「タルディーボ。」
正式には、ラディッキオ ロッソ タルディーボ radicchio rosso tardivo という。”タルティーボ”という名称も良く見かける。ちなみに「タルディーボ」は、晩生(おくて)という意味で、プレコーチェ precoce(=早生種)と区別して呼ぶための言葉だ。そのまま日本語に訳せば、晩生 赤 ラディッキオとでも言えよう。ラディッキオはキク科の植物で、レタスの仲間だ。和名をキクニガナと言う。
イタリアのトレビーゾ原産のものが有名で、大村さんもその品種を使う。ラディッキオをトレヴィーゾとかトレビスとも呼ぶのは、そのためだ。
イタリアではポピュラーな野菜で、冬が旬の野菜。高級野菜として知られる。なぜ高級か?簡単に言えば、手間がかかるからである。タルディーボは、まず畑で育てる。濃いワインレッドの葉が茂り、寒さに当たって、枯れ始める。その葉が、美味しいかというと、とても苦くて食べられたものではない。葉をむしって、水槽に移植して、浸けて、日を遮って育てる。いわゆる軟白化をして、出てきた芽がタルディーボだ。外側の葉をさらにむしり、根の部分を削って完成だ。畑で3ヶ月。水槽で3週間ほど。移植の手間と、せっかくできた葉を何度もむしる作業が、高級野菜たるゆえんだ。
ハウスの中の水槽には、ところ狭しと、タルディーボが並んでいた。
「この水が流水でないとダメなんですよね。」
「ヨーロッパと水質が違うとかで、わざわざアルカリ性にするために石灰とかを流すとか聞いたことがあります。」
日本でも、こういった西洋野菜に挑戦する農家さんは増えている。だが、まず当たる壁は、ヨーロッパと違う土質と水質だ。成分を補うために石灰などのアルカリ性のものを加えることで、ヨーロッパのそれに近づける。
「そう、そう聞きますよね!?でも、うち何もやってないんですよね。”かなっけ”ってここらでは言うんですが、このあたりの水分は鉄分が多いんです。それが原因なのかな、と思ってます。それでしたら、ほんとラッキーですよね。」
大村さんがきらっと笑う。
こちらはカステルフランコ。白菜のように頭を紐で縛り、中身だけを食べる。白い葉に赤い斑が入る。
「じゃあ、ちょっとお客さんに配達もいかなくちゃいけないんで。あとは村田農場長に。」と、農場の共同経営者である村田さんに、畑を案内してもらった。畑には、 タルディーボがあり、カステルフランコがあり、アンディーブがあり、セロリアックがある。すぐ隣には、白菜やキャベツ、ねぎなど、いかにも日本らしい野菜が植えられているで、とても対照的だ。
畑のタルディーボ。
「こうやって掘って、葉をむしるんですよ。」と村田さん。「きれいで美味しいんですけど、この手間が大変なんですよねえ。」
タルディーボの葉をむしる村田さん。
ワインレッドと白のコントラストが美しく、料理に存在感を与える。ほろっとサクサクした食感と、甘みとほろ苦さが特徴だ。外側の葉は苦味が無く、生食でサラダが美味しい。中心部分は、苦味があるのでソテーして召し上がっていただきたい。
3月までは出荷できる予定。日本ではまだ珍しく貴重な野菜だ。
■タルディーボ 宮城県産 100gあたり263円 1~3月まで
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