花嶋さんと出会ったのは、お店を立ち上げて間もない3年前の冬のこと。りょくけん銀座店が提供する「ベジデリカ」には、彩りが欠かせない、と色のある野菜を探すのに躍起になっていたころだ。お取引先さんでもあり、アドバイザーでもある今井シェフのオーベルジュにお邪魔する途中、森町の複合体験施設「アクティ森」で、「紅芯大根」を見つけた。名前も記載されている。お店の方に、なんとか連絡をつけてもらうようにお願いし、自分の携帯番号と会社の番号をその場においていった。
数日後、花嶋さんから会社にお電話をいただく。とても嬉しかったのを覚えている。残念ながら、最初のとっかかりとなった紅芯大根は森町の風土には合わないのか、発色がまばらで形もそろわないため、今は取り扱っていないのだが、代わりに好評を得たのは「菜の花」である。甘みがあり、やわらかで、ピリッとした風味がある。今年はかなり長い期間、お客様からご支持を得続けた。
花嶋ふみさん。自宅のすぐ隣にある菜の花畑で。
遠州森町は、「森の石松」が居を構えた場所として知られる。古いたたずまいもあり、近くに小国神社もあり、広く信仰を集めている。花嶋さんの畑は、町から少し離れ、山に囲まれた、いわゆる盆地にある。周りには田んぼが多い。この中で年間、数種類の野菜を育てている。私が申し上げるのも何だが、とてもかわいらしいおばあちゃまで、ちゃきちゃきの遠州人だ。
そんな花嶋さんからおととい電話があった。
「実えんどうが、よくなってきてね~。とっても良い出来だから、良かったら扱ってもらえないかなぁと思ってね~。明日、ちょっと見てもらうのにいつもの場所に少し送るでね~」
花嶋さんは、作物が良い出来だと、嬉しそうに電話をくれる。実えんどう。いわゆるグリーンピースだ。豆野菜は、「紀州ウスイ」が終わったところだったので、丁度良いタイミングだった。
翌日。あらためて電話があり「浜松に、別の用もあるから、会社にサンプルを持っていらっしゃるそうですよ。」と伝言された。
表面には白い粉が充分にふいている。
しばらくして、お孫さんとお二人でいらっしゃった。品種的に小粒である「紀州うすい」に見慣れていたせいか、大振りで、実の入りも良い。白い粉もふいており、十分な成熟度だ。
「うちは除草剤も使わないで、私がひとつひとつ、つまんでるもんでね~」
除草剤不使用も確認。誓約書にもサインしていただく。
「3年くらい前だったかねえ、家まで来てくれたのは、あなただったかね~?…こんなに若い方だったかね~?」
とコメントもいただく。6月で32になる。「若い」と言われることが嬉しいような、嬉しくないような…。
中には、まるまるとした豆がいっぱい。
花嶋さんが帰った後、早速調理。お湯を沸かしている間に、サヤから実を取り出す。生でそのまま食べると、少々えぐいが、甘みが強く残る。お湯が沸騰したので、中に入れて、1~2分茹でてみた。塩も何も入れない。粗熱をとると、とたんに、甘みが強くなってくる。粒も大きく、ぎっしり詰まっている。全体の重量の6割以上が豆。食べ甲斐があるというものだ。会社に居た先輩方に食味を見てもらう。
「甘い!」
「旨い!」
「美味しい!」
「もう一個!」
「手のひらにたくさんのせて!」
「豆ご飯が食べたい!」
一様に好評を得た。
おとといは仏滅だったので、収穫しなかったが、今朝、起きてみると、実もふくらみ良い感じで、大安だったので、収穫して会社まで持ってくることにした、と花嶋さん。
4日の月曜日から本格的に入荷開始。銀座店はもちろん、新宿の販売会でも、販売の予定。ぜひ味わってほしい春のお味のひとつだ。豆の旬は、あっという間に終わるので、どうぞお見逃しなく。
■グリーンピース(実えんどう) 静岡県周智郡森町産 1P(約200g) 399円(税込) ~5月末ごろまで