右手に日の丸、少し行くと今度は左手に川上の選果場が見える。さらに10分ほど車を走らせると、狭い道になり、大きな真穴(まあな)の選果場が現れる。
日の丸、川上、真穴。愛媛県が誇るみかんの三大トップブランドだ。海からの照り返し、丁寧に組まれた石垣からの照り返し、そして太陽。三つの光を受けて、良質なみかんが育つ。
矢野源一郎さんは、そんな真穴地区の農家さん。
優しい笑顔の矢野さん。
「ちょうど、炭を焼く釜をね、つくってたとこだ。」
『百姓』と言う言葉がある。もともと百の仕事ができるから、と生まれた言葉だ。矢野さんもその例に漏れない。何でも自分で作ってしまう。この地域は、『黒潮の森のはちみつ』のときに触れた『ウバメガシ』の棲息地であり、矢野さんは備長炭を自分で仕込む。そしてこれまた自分で作った囲炉裏に焚く。
「洋子さんは?」と聞くと、
「洋子は、松山の高島屋に行っとる。みかんもちを売るんや。みかんの皮から実まで全部入れて、洋子が作ったもんや。」
美味しそうだ。
「畑、行けますか?」
「おお、良い具合になっとるよ。じゃ行こか。」
みかんの名産地に来たと言うのに、私の目的は、みかんではない。
脇にある階段が畑に続く。収穫のときに使うトロッコのレールも見える。
きれいに舗装された道をクネクネと上っていく。入り口に着き、車を降りて少し登っていく。晴れていると、海と空がとてもきれいな場所。曇っているのが残念だ…。
レールに沿って上っていくと、タロッコ畑につながる。
「ほら、タロッコだ。」
袋をひとつひとつかける。外皮が弱く、キズが付きやすいためだ。
袋を取ってくれた。一般のオレンジよりも、うっすらと赤い。
果皮の色がだいぶ濃くなっている。
「良い具合に仕上がってる。」と矢野さん。
タロッコは、ブラッドオレンジの一つ。モッロ種とサンギネッロ種とタロッコ種が、主たる品種で、イタリアのシチリア島が原産だ。イタリアの南西部に位置するシチリア島と、日本の四国宇和島は、海に面した温暖で乾燥した環境がよく似ており、地球規模の温暖化も手伝って、最近になって少しずつ栽培が増えている。
Sanguinello(サンギネッロ)とMorro(モッロ)は、果肉全体が赤やどす黒い血の色になる。それに対して、Tarocco(タロッコ)は、まだら模様になる。ビタミンC含有量は、その3品種の中で最も多い。…どころか、世界中で栽培されるオレンジの中で最も含有量が多いと言う。
まだらに濃い赤が差すブラッドオレンジ。
昨年、イタリアからの輸入が解禁となり、喜んで生のイタリア産ブラッドオレンジを食べたのだが、あまり美味しくなかった。糖度は9~11度くらいで、本場で食べるような鮮度感とジューシーさがまったくなかったのだ。おそらく船で輸入されたためだろう。
それに対し、矢野さんのタロッコオレンジは、糖度は14度前後あり、とてもジューシーだ。酸味も程よい。くし型に切って、ほおばると、ジュワッとタロッコのジュース分が広がる。また、知人友人に、この美味しさを知らせたくなる…。
まだらな赤だから、と思ったが、搾ってみるとジュースは見事な赤に染まる。
潰瘍病に弱いため、皮にキズがあり、サイズもいろいろだが、美味しさは一級品。本場シチリア産のものにも負けない。
まもなく、りょくけん松屋銀座店の店頭に並ぶ予定だ。お楽しみに。
■ブラッドオレンジ 100gあたり※ 210円(税込) ※おおよそ中くらいの大きさで1玉。 販売期間 3月22日(土)~4月末を予定。