りょくけん東京

りょくけんだより
りょくけんだより~ BLOG ~

海の恵みが美味しさを育む。

origenal radish @.jpg トルコ。黒海沿岸にたたずむアブラナ科野菜の原生種。

浜松を出て1時間と少し。品川に着くと雪がうっすらと積もっていた。方々の産地で雪は見てきたが、東京で雪を見るのはかなり久しぶりだ。

京浜急行に乗り換え、目指すはその終着駅、「三崎口」。雪の影響もあり、少し電車は遅れていた。今年も暖冬なのかな、なんて思っていたが、かなり寒い。電車の中も。ようやく冬がやってきた。「野菜もおいしくなっていくな。」なんてほくそえむ自分に気づくと、いやいやそれだけじゃないだろ、と言い聞かせる。

品川からさらに1時間40分。神奈川県、三浦半島の先っぽ、三崎口の駅に着く。川崎を過ぎたあたりから、雪は雨に変わり、三浦では小雨に変わっていた。

「午前中は持つようなことを言っていたんだけど。」 農家さんである青木さんが車で迎えに来てくれた。どうやら三浦では少し前に降り始めたばかりのようだった。浜松から東京、神奈川と移動する間に天気を追い越していくような感覚はちょっと面白い。

mr-aoki2.jpg 「大根をつくってもう30年になるかな。」

精悍な顔つきで、からからに乾いた肌、頑強な体躯、話し出すと止まらない知識と経験、そして笑顔。

良い農家さんだ。

red hearted radish.jpg 紅芯大根をスライスし、甘酢漬けにする。

ご自宅に着き、納屋=作業場に入った。奥さんがシュッシュッっと赤いものをスライスしている。

「…紅芯大根!」

「そう、紅芯大根。割れがあるものは、漬物にしてる。」と青木さん。

「紅芯は、割れが出ますよねぇ。形もそろいづらいし、中身も赤くないものとかありますもんねー。ん?」

「そんなことない。色は入る。」

red hearted radish dannmen.jpg

確かに奥さんがすっている大根はことごとく赤い。さておき。食べたくなったので、「つまんで良いですか?」と食べてみる。

「甘い!」今、お店で売っている大根もかなり甘いけれど、少しおかしな甘さだ。かばんから取り出した糖度計で測ると、うっすらと9度に達しているのが分かる。

「オレはね、これを『冬のスイカ』って呼んでるの。9度?そうか、初めて測ってもらったけれど、本当にそんなにあるのか。」

「9度って?」奥さんが首をかしげる。「9度と言うと、あまりおいしくないスイカや、あまり甘くないみかんくらいの甘さですよ。」と説明すると、自分としては賞賛しているつもりなのだが、なんだかほめているのか、けなしているのか、良く分からなくなる。「なんだか良く分からないねー。」と奥さん。

畑に青木さんと二人で向かう。三浦は、半島で海に面した地域だから、平地は標高が低い。だが、青木さんの畑は、少し小高い丘の上にある。稜線に道が通り、両脇のゆるく傾斜した畑に大根、キャベツの苗などが植えてある。水はけの良い、良い畑だ。ふと視線を畑からはずすと、曇り空の向こうに、海が見えた。

「あ、海だ。」

gulf sagami.jpg 前回たずねた時に撮影。

「そう、相模湾。よく晴れていると富士山も見えるんですよ。」

残念。

chinese radish.jpg はこべなど雑草に負けることなくたくましく育つ大根。

「まあ、晴れていたら、収穫が忙しくなって、こんなにゆっくり話せないからさ。良いじゃないですか。」と青木さん。確かにその通りだ。

青木さんはいろいろな野菜を作っているが、冬は大根とキャベツが主力だ。「同じアブラナ科なのに連作障害とか出ないんですか?」と聞くと、「三浦は海があるから。」と言う。聞けば、潮風や台風やらで、海からミネラル分が都度補給され、地力が落ちないのだとか。上司が、冬から春にかけての大根&キャベツの産地を、この三浦に求めたのも、そのためだ。そう、アブラナ科の植物の原生地は、ドーバー海峡や、地中海などの海に面した地域なのだ。

red hearted radish2.jpg 畑で割れた紅芯大根。中身が赤いのがよく分かる。

「分かった!」ふとひらめいた。紅芯大根があんなに赤いのも、そのミネラル成分の故だと思った。赤はFe=鉄分などのミネラルが生み出す色。私の予想は、おそらく当たらずとも遠からず、だと思う。

lupestoris.jpg シチリア島のキャベツ原生種「ルペストリス」。

silvestoris.jpg 英国。ドーバー海峡に面した白い岩壁に張り付いたキャベツの原生種「シルベトリス」。

キャベツの畑に移動すると、バサバサバサッと黒い群れが空へ逃げていった。

「あ!やられたあ!」

―ヒヨドリたちだ。鳥は鼻が利くのか、完熟したくだものや美味しい野菜“だけ”を狙う。青木さんには申し訳ないのだが、ちょっとうれしい。鳥がいる=美味しい、からだ。

cabege eaten.jpg 頭頂部をついばまれたキャベツ。こうなると出荷できない・・・。

除草剤を使わないから、はこべが生い茂っていたが、それに負けずにキャベツが育っていた。寒さに当たってアントシアニンも出てきている。大きさはまだ小さいから出荷は少し先。あまだまキャベツ@愛知→雪の下キャベツ@北海道→春キャベツ@三浦、と続くキャベツの産地リレーは、なんだかとてもワクワクするのだった。

■大根 神奈川県産 1本 294円(税込) 2月10日ごろ~

■春大根 同上 1本 294円(税込) 3月中旬~4月末

■春キャベツ 同上 1玉 315円(税込) 4月上旬~

■紅芯大根 同上 51円/100g 2月上旬~2月末

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静岡の地元のテレビ番組で松屋銀座のりょくけんのお店が紹介された。最後にお客様のコメントが放送された。 

「あたりはずれがない。どれも安心して買える。」

「野菜はきらい。だからここに来る。」

ありがたいお言葉を頂戴した。これからも期待に応えて行きたい。