イチゴの出荷が始まった。
日が暮れて、空の低いところに、夏の大三角形が見えた。すぐに姿を消して、オリオン座を中心とした冬の大三角形が上がってくる。冬の始まりだ。
朝起きると、その星たちがまだ瞬いていた。羽田空港6時25分発の飛行機に乗り込み、8時15分に福岡空港に着いた。向かうは、宗像(むなかた)。そこに、昨年から取引を始めさせていただいたイチゴ農家 花田さんいる。
レンタカーのカーナビに指示されるまま、運転していくと、鳥居があった。『?』が浮かんだが、そこを抜けると集落があり、さらに進むと、花田さんの家に着いた。
後で分かったことだが、花田さんの家の背後にある湯川山という山の頂上に神社があり、鳥居は、その神社のものなのだそうだ。
「遠いところ、よくいらっしゃいましたぁ!」
浅黒く焼けた肌に大きな目、大柄、そして作業服の花田さんに、色白でどちらかというと小柄な奥さん。なんだか対照的なご夫婦なのだが、いつ来ても二人で迎えてくれる。
作業着が泥で汚れているところを見ると、今朝も作業をしていたのだろう。
「今年はねえ、早いんよ。昨日、ちょうど初収穫をしたとこなんですわ。」
元郵便局員だったという花田さん。家業であったイチゴを継いで今年で10年。奥さんは「まさか自分がイチゴを育てるなんて思ってなかった。」と静かに、強く言う。
3箇所あるハウスを見せていただき、一番早い圃場には確かに赤い実がちらほらと見える。
摘果を強くして(=間引きを多めにすること)、甘く、大玉を作るのを得意とする花田さんだが、昨年より初出荷が2週間早い分、ここから12月中旬くらいまでは小玉傾向とのこと。
「採って食べてみてください。」
そうは言われても緊張する。3月から作業を始めてようやく実った果実なのだ。
「これかな?」と手をつけると、
「それはまだ早い。」
と制された。
「このくらいの色になってからとるんよね。」
確かに色味がより深く、種の赤い色も濃い。
「おお。初物だぁ。食べていいんですか?ではありがたく。」
一礼して口にほおばった。
濃い。
イチゴらしい甘みがあるが、同時に程よい酸味がある。
しかし、花田さんはあまり納得してないご様子。一口食べると、「ああ、これくらいで満足ですか?」みたいな表情で首をかしげる。
「一応ねえ、イチゴの先端の部分で、13.4度位はあるんやけどねぇ。去年の収穫初めは15度あったんよ。」
イチゴの糖度は品種によって違うが、大体11度~12度くらい。酸味の多寡にもよるが、13度以上あれば、かなり優秀。
―なのだけれど、花田さんは、
「糖度15度以上をコンスタントに維持し、大粒を作る。」
のが信条だから、今年の出来は不満足なのかもしれない。
実際、花田さんは、それだけ手をかけている。
水はけを良くするために、ひときわ高くした畝(うね)に、黒いビニールシートを張り、地温を高く保つ。
そのビニールの上には、白いスノコが敷かれ、イチゴの赤い実が、花と葉の間から顔を出している。
実が地面につくと、そこから黒く変色してしまうため、余計な熱を出さない「白」のスノコを探し出したんだとか。
イチゴの収穫や作業は重労働だ。腰より低いところにあるから、ずっとかがんで仕事をしなければならない。
それを軽減するために、最近では「高設栽培」といって、腰くらいの位置に棚を設置し、そこに土を入れて栽培する方法が一般化してきた。
「高設にはしないんですね。」
「うーん。確かに作業は楽だけれど、まだ怖い。土はね、すべてを受け止めてくれるんよ。限られた空間の土だと、自分がもしミスをしたときに如実に反応が出る。その点、土はすべてを許してくれる。」
なるほど。
食味は、高設でも変わらないと言う人も居れば、変わると言う人も居る。実際のところ、まだまだその技術は発展途上で、なかなか簡単ではないようだ。
初物のイチゴを贅沢に堪能した後、帰途に着く。送っていただくときも、いつも二人。なんだか良い。
幸せの香りと書いて「さちのか」。封を切ったときにふわっと広がる甘い香りと、口に入れたときの食味の濃さが良いです。ぜひお試しください。
■さちのかイチゴ 1p(約300g) 1260円(税込) 11月中~4月末ごろ。
■アスカルビー 1p(約300g) 1260円(税込) 12月中~4月末ごろ。
■京虹(きょうこう) 1p(約300g) 1260円(税込) 12月中~4月末ごろ。
贈り物にも好適。さちのかは、店頭の他、松屋銀座お歳暮カタログでも承り中。大玉になる12月中旬ごろの出荷予定。