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産地情報

熊本 内田さんのスイカ。

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「ここかなあ?」

「見てきます。」

「違いました。」

「ちょっと道を聞いてきます。」

「もっとあっちのほうに行くと、『内田さん』の多い集落があるよ。」

そんなやりとりを何回か繰り返した後、ようやく内田さんの家にたどり着いた。なるほど、どこかしら、どの家も似ている。ちょっとした坂を少しあがった平地に立派な屋敷と選果場に広い庭。軽トラが数台。物覚えのよい我が上司が覚えきれないのも無理はない。もう一度一人で行け、と言われてもきっと分からない。お父様と息子さんが迎えてくれた。

「ハウスに案内しますよ。」息子さんが言ってくれた。早速、圃場に向かう。

なだらかな斜面が続いた丘陵地帯一面にビニールハウスの棟が立ち並ぶ。「飛行機がこの上空を通るときは、『気流が違う』って注意するらしいですよ。」周りの農家さんが一斉にハウスを開放すると、その暖かい空気が上空に昇り、気流を変えるらしい。ちょっと怖い話だ。

ハウスの中は気温が32度に設定されていて、暑い。南国九州は、ちょうど週の始めごろから暖かくなり始めたらしく、外も暖かいが、ハウスの中は、話しているだけでも汗ばんでしまうほど。ビニールの屋根が二重にあり、さらにもうひとつ、スイカの上を覆っている。大きなビニールハウスの中にもうひとつビニールハウスがある感じだ。まだまだ食べられる大きさではないが、けっこう大きくなっている。

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「これは何ですか?」スイカの間に、棒が立っている。「着果棒(ちゃっかぼう)と言って、花が実をつけたときにさすんです。7色あって、その色ごとに何日後に収穫すると決めるんです。」chakkabou.JPG

まずいスイカの理由は3つある。

ひとつは、高温多湿の日本の「夏」に作ってしまうこと。スイカは砂漠が原生地だから、高温を好むが、湿度を嫌う。乾燥が必要なのだ。そのため、この春の時期に、九州のハウスでつくるスイカが、一年で一番美味しくなる。

二つ目は、一般的な農家さんが、一斉に収穫してしまう点だ。花が実をつけた時期がばらばらなのに、収穫を一斉に行えば、熟度はばらばらで、美味しいものとまずいものがまざってしまう。これを避け、着果ごとに管理するのためのアイテムが、この着果棒というワケだ。

三つ目は、一株からならす実の数だ。スイカは瓜の仲間だから、つる性で、一株からいくつか「つる」が伸びる。一般的に「つる」は二つ伸ばし、そこからそれぞれ1~2玉の実をならす。ひどい場合には、その実がなった後に肥料を与えて、さらに実を育てる場合もある。外観こそスイカだが、似て非なる味になってしまう。これに対して、誰でもできることではないが、内田さんは、一株からひとつだけのつるを伸ばし、ひとつしか実をならさない。このため、栄養が集中し、ぎゅっと果肉の詰まった、食味のよいスイカになる。最近はスーパーさんでも、カットしたスイカに糖度表示をするのをみかけるが、大抵、9~11度だ。これに対して、内田さんのスイカは最低で12度。まだ取り扱いさせていただいて2年しか経っていないが、それを下回ったスイカにいまだ出くわしたことがない。

これは、「一株一果 (ひとかぶいっか)」と会社内では呼んでいる栽培方法で、当然収穫量が上がらないけれど、ひとつひとつは良いものがとれる。大玉スイカより1週間くらい早く収穫される小玉スイカは、さすがに一株一果ではないが、2~3玉に抑えて、シャリ感のある、うまいスイカになる。

一通りハウスを拝見させていただいた後、内田さんが気になることをおっしゃっていた。「基盤整理が入るんですよね。」日本の農業の弱さは、効率の悪さにある。諸外国の大規模農業は、一人の農家さんが、広大な面積を一箇所に持つ。これに対し、日本の農家さんは、数箇所に分かれて、いくつもの圃場を持つのが普通。自宅から数キロ離れたところに畑がある方もいる。これを改善するために、行政が主導して、農家さんがばらばらに持っている圃場を交換し、一箇所にまとめるのが、「基盤整理」だ。数年先のことを考えれば、絶対に必要なことと思うが、直近の数年は大変だ。心情的には、先祖代々の土地を手放すことになるわけだし、実質的には、何年もかけて育ててきた土壌を、また一から育てなければならない。育てるだけならまだしも、前の農家さんが、どんなものを作っていたか、またどんな農薬を使っていたかでも、勝手が異なっていく。

「去年は、隣から強力な除草剤が流れ込んでしまって…。雨が降った後に。ハウスの端の方の出来が悪かったんですよね。最近はあまり根にも影響のない除草剤ができたって言うけど…。そういう区画を割り当てられたら、ほんとに大変。」

内田さんは端正な顔立ちをしていて、口数が少ない。そんなにしゃべらない。それでもまじめさと、内に秘めた熱いものを感じられる生産者だ。

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昨今、大玉のスイカの需要は落ちているというが、銀座のお客様は怖いもので(すみません)、昨年も、ほぼ毎日、一玉購入していただけるお客様がいらした。今年もお客様からこのスイカにどんな評価を得るのか楽しみだし、寡黙だが、まじめに農業に取り組んでらっしゃる、若い同じ世代の農家さんに会うと、自分も頑張らなきゃと思うし、お客様にこういったことを伝えなければ、と思う。

天候に異変がなければ、4月末から小玉スイカ、5月上旬から大玉のスイカが、りょくけんの店頭に並ぶ。少し手軽に買えるお値段でないかもしれないけれど、その価値が十二分にある、一年でもっとも美味しい内田さんのスイカ。お楽しみに。

■小玉スイカ 4月20日ごろ~5月10ごろまで ■大玉スイカ 4月30日ごろから~5月末まで。 ※5月上旬に一回切れる時期がある見込み。