赤土が広がる三方原台地の姫街道から少し入った広い畑で、話を伺っているうちに、とても謙虚で、研究熱心で、努力家で、照れ屋さんであることが良く分かった。
磯貝さんは、お父様から畑を継いだのではなく、おじいさまから畑を継いだのだそう。
惰性ではなく、よほどやる気がないと、そういうルートはないだろう。
まだまだ若いけれど、農業に携わるようになって12年目だという。
ご案内いただいた畑は、元々はお茶畑だったそうで、畑に残っていた肥料分や、土の性質を変えるのに3~4年かかったそう。
収穫する列には、板が敷かれており、少しでも土に圧力をかけないようにする工夫だ。
大根は、土が固いと大きく育たない。
ぎゅっと固い肉質になり、あまり美味しくない。
品種を訊ねると、企業秘密だそう。
日本で入手可能な200品種以上の大根の中から選び抜いたものを、主に7品種播いている。
実験品種も加えると10品種は播くそうだ。
夏を越えて冬に収穫する品種、寒い冬の間に播種して暖かくなってきたころに収穫する品種。
当然、品種を変更しながら栽培しなければリレーはむつかしいのだけれど、けっこうな品種数だ。
「今はやりの、、たっかいですけどねえ、撒いてますよ。やっぱり全然違います。」
フルボ酸は、農業系の冊子を呼んでいる方は、たいてい知っている農業資材。
農業資材は、肥料や農薬、あるいは前述のマルチシートのこと。
フルボ酸は自然界に存在する有機酸の一つ。
土壌のミネラルバランスが良くなり、生長にも寄与するが、病気にかかりにくくなる。
他にもいくつも、農業資材の名称が挙がった。
「なんていうか、例えば、それを撒くと、、」と言って、畑からずぼっと大根を抜いた。
こんなに簡単に抜けるものなのか、と思うほど、すぽっと抜けたので、少し驚いた。
そして、肌に傷だったり、黒い変色がない。
「サラサラの赤土のせいもありますけど、こうやって肌がきれいになります。」
人ができることをきちんとしているなあ、とホント、感心してしまった。
その結果、浜松の大根品評会で、銅賞、銀賞を何度も獲得しているそう。
「自分の名前で出さなかったら、なぜか金賞もとったんですけどね。。。」
品評会も、毎回、関係者から「『磯貝さんが出してくれないと~。』とお世辞でも目をかけて言ってくれるのが嬉しくて出品してます。」とはにかむ。
曰く、『浜松で一番きれいな大根だから。』と一言添えてくださるそうな。
さもありなん。
とっても食べたくなって、畑にあった大根のかけらを食べてみる。
「甘い…。あとからうまみも来る。辛みがない。」
大根の先端の方の部分だったので、とても驚いた。
「何にするのが美味しい料理法ですか?」と水を向ける。
「料理法ですか? いや、本当に何にしても美味しいですよ。煮ても焼いてもサラダでも。」とサラリ。
謙虚で控えめなのに、サラリとすごいことを言う。
「ほかの産地だと、苦みがあるんですよ、大根に。ここでは、それが無いですね。」
磯貝さんの、この大根をぜひ紹介したい。
そう、心から思った。
バチバチと畑の写真を撮る私に、「晴れている時だと、畑、もっときれいなんですけどね。また晴れた時に来てください。」と言ってくださった。
また、この青年農家さんと話がしたいと思った。