「フランスの品種らしいんだよね」
「新宿御苑にあったものを、ある農学博士から譲ってもらった」
「明治天皇がこよなく愛したイチジク」
当時、照喜治さんから聞いた話は、どれも証明がむつかしかった。
ただ、入社したてのころ、よく訪れた照喜治さんの家で、奥さんのいとさんから
「食べてごらん」
と言われて、
「こんなまるで傷んだようなものを!」
と思って食べたのが、まるで砂糖のように甘くておいしかったのをよく覚えている。
照喜治さんのご自宅の庭には、所狭しと、野菜が植えられていて、その一番わきに小さなハウスがあった。
イチジクが植えられていたのはそのハウスの中。
いとさんは、どこにどの果実がなっていて、どの果実が食べごろになるのかよ~く覚えていて、照喜治さんが勝手に、お客様に食べさせたのを、
「あれ、おかしいわね。こことこことここに…。」
と首を傾げた後、
「さっき女のお客さんが来てたわね…!」
と、照喜治さんが客人に”勝手に”食べさせていたことを常に察していた。
そのイチジクは、熟しても、桝井ドーフィンのように褐色にはならず、緑のまま。
バナナのように黒い点々が出て、「傷んでるのでは?」と思うようなものほど、甘くて本当においしかった。
りょくけんが、自社農場的に立ち上げた菊川の施設に移殖され、さらに照喜治さんが1haほどの露地の畑を開墾した際にも移殖され、栽培本数が増えた。
ただ、皮ごと食べられるイチジクは、輸送が本当に難しく、販売がとても難しかった。
そして、ものになる前に、二つの農場はたたまれた。
ほかの作物も多数あったが、あのイチジクだけは!と思って、なんとかほかの農家さんに穂木を接いでもらい、保管した。
結局は、照喜治さんのご子息である次郎さんが、現在は、そのイチジクをメインに管理。
夜温がなかなか上がらず、熟すまでに時間がかかってしまったが、ようやく、今週から日の目を見る。
フランスの品種、御苑、明治天皇うんぬんの、眉唾のイワクつきのイチジク。
トルコやイラクで栽培されているイチジクは、この類のイチジクで(残念ながら生果では流通していない。もっぱら乾燥させたドライフルーツとして流通する)、おそらくフランスでもそう。
実際、新宿御苑には、緑のイチジクが現在もなっている。
新宿御苑は皇室ゆかりの公邸だから、明治天皇が食べた、ということも、確率が高い。
一度は無くなりかけた、幻?のイチジク。ぜひ、一度お召し上がりいただきたい。
銀座店、通販ともに販売開始だ。
■白イチジク 静岡県産 972円(税込)
https://www.shop-ryokuken.com/SHOP/42385.html