「奇跡のリンゴ」という映画を見た。
農業に関連する仕事をしている者として、少なからず嫉妬が生まれても嫌だから、と見ないつもりでいたが、妻がどうしても一緒に見たいというので、仕方なく・・・。
世界で初めて、無肥料・無農薬のリンゴを栽培したとして、一躍時の人となった木村秋則さんの半生を描いた、おそらくほぼノンフィクションの映画である。たまたまではあるが、ブレイクの契機となった「NHK プロフェッショナルの流儀」で木村さんの放送も拝見していたし、「無肥料・無農薬」は農業の理想でもある、と思っているので、興味はあった。
映画は、弘前市が舞台で、私も幾度となく訪れている場所だ。映画の途中途中に出てくる名峰 岩木山(いわきさん)や民家、農家さん、リンゴ畑の風景が、お付き合いのある農家さんたちを思い起こさせ、感情移入せずには見られない映画だった。
岩木山 ※手前は毛豆の畑(木村さんとは関係ないです) |
そして、何年も無収入だった木村さんを支えた、奥様やお子様たち、そして、特にお義父様には、敬意を感じずにはいられなかった。
以前、北陸の田んぼを見に行ったときのこと。その生産者は自然農法(無肥料、無農薬)を取り入れていた。当の本人は居なかったが、隣の田んぼで農作業をしていた方が、
「そんな米が良いんか?わしりゃからすれば、何にもせん、手抜きにしか見えんけどなあ。」と語気を強くして言ったのを覚えている。
農業はとかく狭い社会で行われているから、やっかみや介入も激しかったことだろう。
有機や、自然農法、といった商材を取り扱うと、どうしても、お互いに排他的だったり、他の農業を非難したりすることが多く、少し嫌悪感を覚えることもあるのだが、「奇跡のリンゴ」はそのような後味がなく、すがすがしい印象だった。
農薬の良いところも、悪いところも、両面をきちんと伝えていたし、実は消費者よりも生産者のほうが、その薬害をずっと受けやすい立場にあることを暗示していた。当時は、効き目が強いことが歓迎されたので、今よりも数倍強力な農薬を使用していたから、本当に大変だったと思う。
こういう仕事をしているので、少しは、木村さんのことは伝わってくる。NHKで放送されて以来、本当に忙しいらしく、講義や指導で全国を飛び回っているそうだ。映画を見た直後のため、「じゃあ、もう収入は安定したのかな?あの娘さんたちはちゃんと食べているのかな?奥さんは幸せかな?」などと思ってしまう。※娘さんたちは同じ年くらいなので、そんな心配は要らないのだろうが…。
気になって少し調べてみると、木村さんの奥さんの実名は、美栄子ではなく美千子さんで、「今は、ほとんど家にも居なくて、そういう意味では、以前、貧乏だったころのほうが、ずっと一緒に入れたので良かったかも。」と、もらしているそうな。車椅子に座っているご本人の写真を拝見して、また少し要らぬ心配をしてしまった。
農業。
それに関わる者の端くれとして、少しでもお力になれれば、という思いを、強く、新たにしてくれた映画でした。