りょくけん東京

りょくけんだより
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キノコの季節。

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「ポルタベラ」の生産者である長谷川さんにお会いしたのは4年前の秋だった。

もともと、りょくけんはキノコは不得手な分野と言って良い。それに輪をかけて、私がキノコが苦手なために、秋の味覚の開発は遅れていた。

「マッシュルームは、富士だったかな。良い生産者さんがいるよ。」と先輩から紹介された。「実は、商談の帰りにとんかつ屋で部長と夕食を食べていたら、話しかけられてね。『僕もそう思いますよ』って。」

部長にも確認&快諾を得て、早速、連絡を取り、富士に向かった。

新富士駅には、軽トラで長谷川さんが迎えに来てくださっていた。少し小柄で、浅黒の肌に、大きな目。やや強面の印象だった。

hasegawa.jpg 実はとても気さくな方だ。

長谷川さんは代々のキャベツ農家だった。たしかに、吉田や島田にかけての地域は、キャベツの大産地だ。キャベツは、割と怖い。市場価格の乱高下が激しいからだ。幼いころから、父親が苦労しているのを見て、いざ農家を引き継いだ際に、やっぱりキャベツ以外のものを、とマッシュルームを導入した。一大決心だった。

マッシュルームは、キノコの中では珍しく、生で食べられる。欧米では主流なのに、当時の日本ではマイナーな食材で、国内で栽培する人も少ない。これならば、独自色を出せる、と奮起したのだ。マッシュルーム栽培の先進国であるオランダに赴き、実地研修、菌を買い、施設も、それを制御するコンピューターも購入。購入した会社からオランダ人技術者を招き、事業を手伝ってもらった。

富士にはきれいな水がある。だが培地が見つからない。あまり知られていないことだが、マッシュルームは、木からは生えない。施設ベッドに敷きつめ、菌を植える土=堆肥が必要なのだ。ところが日本には良質な麦わらと馬糞が少なく四苦八苦。結局、培地もオランダから輸入して、やっと栽培が軌道にのった。オランダでは、競走馬のとても良い馬糞が手に入るらしい。

compost.jpg オランダ直輸入の培地。キノコの菌糸(白いもの)が行き渡っている。

��5分くらい車で走っただろうか、長谷川さんの「工場」に着いた。銀色の壁に囲まれており、当然だが、窓が少ない。建物の中には大きな冷蔵庫が複数あり、上からつるされたひもを引っ張ると、ドアが開く。巨大なスチール製の棚に、3段ほど培地のベッドが並び、それが、部屋にはいくつもあった。当たり前だが、暗い。

shelf.jpg 鉄骨の枠組みに培地が敷かれている。

「じゃあ、せっかく来てくれたから。」と長谷川さんが白のマッシュルームを培地からつまみ、サクッと手で割いて私にすすめてくれた。あまり得意ではないのだが、「これも経験!」と思い口に入れると、ふわっと土の香りがして、ホロっとした食感と、青竹のようなみずみずしさとフレッシュな味が、口の中に広がった。

「美味しい。」

繰り返しになるが、私はあまりキノコが得意ではない。生でキノコを食べるのも初めてだった。それにもかかわらず、あの味はとても印象的で、忘れられない。

「この味は、ここでしか味わえないんだけどね。日持ちを良くするために、別の部屋に入れて、締めるんだ。『締める』って言うのは、水分を少し抜いてやることなんだけど、それをすると、このジューシーさが、やっぱりどうしても少なくなるんだよね。」

なるほど。

white.jpg ホワイト種。

マッシュルームには、主にホワイト種とブラウン種がある。ブラウン種のほうが原種で、味も濃く、香りも高い。その上、日持ちが良い。一方のホワイト種は、欧米でも人気で、その美しさが尊ばれる。ただ、ちょっとした当たりで、褐変してしまう弱点がある。美しさとは、もろいものなのかもしれない。

「そのほかに、『ポットベラ』っていうのもあるんだ。品種は同じなんだけどね。ある時期に、キノコの傘の形とか大きさで、これになるかならないか分かり、あとは発注にあわせて残しておくんだ。」

ポットベラとは、掌ほどの大きさの巨大マッシュルームのこと。Portabella「ポルタベラ」ともPortobello「ポルトベロ」、「ポートベロー」とも言う。オランダ人の発音を、長谷川さんが一生懸命ヒアリングして、カタカナに直したものが『ポットベラ』だ。イタリア北部の方言で、大きな帽子のことを意味する。この大きなマッシュルームが、お店で評判で、バター醤油で焼くと、とてもうまい。肉っぽい食感と、ナッツのような風味がある、と人気を博している。

農薬も使わず、もちろん無漂白。ポルタベラについては、200個に1個しかできない貴重品。ぜひ一度お召し上がりいただきたい。

■ポルタベラ 静岡県 長谷川さん 1P 通年